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児童虐待の抱える問題と施策 弁護士 中村映利子
毎年11月は、児童虐待防止月間です。これは、「児童虐待の防止等に関する法律」(通称 児童虐待防止法)が2000年11月に施行されたことにもとづきます。キャンペーンカラーであるオレンジ色を配したポスターが、街中に張られているのをご覧になった方もいらっしゃるのではないでしょうか。
児童虐待の最大の特徴は、「第一義の保護者であるはずの者が加害者である」という点でしょう。これがゆえ、被害が外部から見えづらく、救済の緒が失われます。ある程度の年齢になれば自ら学校の先生や警察に相談することもできますが、被害者自身が低年齢の場合、被害者自身それが虐待であるかどうか判断することすらできません。また、同じくこれがゆえに、被害者と加害者の分離が極めて困難です。被害者は、通常加害者に依存して生きています。精神的に、経済的に、また法律的に、被害者が加害者から離れて生きることは、極めて難しいのが現実です。
児童虐待防止法では、児童福祉に関わる施設(病院や学校等)の虐待早期発見義務や、児童虐待が行われているおそれがある家庭への立入り調査、要保護児童を保護者の同意なく施設入所させられる手続、虐待親が一定期間子どもと接触できないようにする接近禁止命令等、児童虐待の解消を目指して様々な措置を定められています。
また、同法では、私たち一般市民にも義務を課しています。それは、虐待を受けたと思われる児童を発見した場合には、児童相談所等への通告しなければならない義務です。(義務違反に対する罰則はありません。)
法はなぜ「義務」という強い強制力を課したのでしょうか。それは、通告された者が、通告した人に対して「お節介を焼かれた」と逆恨みをすることを回避するためです。義務と定めておけば、通告者はただ法的義務を果たしたのであり、余計なことをしたことにはなりません。
また、当初この規定は「虐待を受けた児童を発見した者」と規定されていたのですが、のちに「虐待を受けた『と思われる』児童を発見した者」と改正されました。これは、虐待が実際にあったかどうかを外部から判断するのは難しく、間違いであってはいけないと考えて通告をためらってしまうことを回避するためです。
このように、入念に通告者の立場を守ることで、少しでも情報提供を促したいという姿勢が、この規定には現れています。それだけに、児童虐待は被害が外部から見えづらいということです。救済の糸口は、私たち市民に託されているのです。
皆さんは、ダイヤル「189」をご存知でしょうか。
これは、「虐待かも…?」と思った時に、最寄りの児童相談所に通告・相談ができる、厚生労働省が設置した全国共通ダイヤルです。局番なしの189にかけると、お近くの児童相談所につながります。(通告や相談は、匿名で行うこともでき、通告・相談をした人、その内容に関する秘密は守られます。)
また、このダイヤルでは、加害者側である保護者の方の相談も受け付けています。「叩きたくないのに子どもを叩いてしまう」、「配偶者の暴力を止める事ができない」、「どうしても子どもを可愛く思えず、お世話ができない」…そういった悩みを抱えている方にもご利用いただけます。児童虐待の背景には加害者側にも、貧困、暴力、孤立等、何らかの事情がある場合が多いと言われています。自分が虐待親になっているのではないかと悩まれている方は、どうか自分だけを責めて事実に蓋をしてしまわないでください。
実は児童虐待防止法が制定される以前も、昭和22年より児童福祉法の中で、児童虐待防止のための施策(通告義務、立ち入り調査制度等)は制定されていました。しかし、それが実際に使われたことはほとんどなかったそうです。その理由ははっきりしませんが、当時の社会が、子どものしつけは親に任せておけば良い、他人がよその家庭に口出しすべきではないとして、児童虐待問題に目を向けてこなかったからかもしれません。
せっかく存在する制度も、使わなければ意味がありません。児童虐待をさせない社会を作っていくのは、ほかでもない社会で生きる私たちひとりひとりの意識ではないでしょうか。すべての子どもが安心して健やかに育つことのできる社会が作られていくことを、心から願ってやみません。
「相続登記はいつまでにしないといけないのですか?」と相談で聞かれますが、相続税申告とは異なり、相続登記申請の期限はありません。そのため、被相続人の死後、相続登記がされないまま何年も経ち、二次相続、三次相続が発生して相続関係が複雑化するケースもありますし、登記申請に必要な公的書類が保存期間経過により入手不能になることもありますから、「期限はありませんが、早いうちにすることをお勧めします」と答えています。
所有者の死後に所有権を移転する登記を「相続登記」といっていますが、登記原因は「相続」と「遺贈」があります。所有者から権利を承継する点では同じですが、登記手続きは大きく異なります。
大きな違いをあげると
①相続は単独申請だけど、遺贈は共同申請
②相続は登記識別情報(登記済権利証)の添付が必要ないけど、遺贈は必要
③相続は登録免許税は不動産評価額の4/1000だけど、遺贈は20/1000
特に登録免許税は、例えば評価額2000万円の不動産の場合、原因が相続だと8万円なのに遺贈だと40万円もかかるのです。
【平成29年2月記】
軍艦島 弁護士 吉田誠司
2016年の秋、長崎の軍艦島に行きました。2015年に世界遺産に登録され、「ガイド付きクルーズ船も運航されて行きやすくなった」というのですが、実はなかなか上陸が難しい島です。海が少し荒れて波が高いと島の船着き場に船が寄せられなくなるのです。この日も小雨で少し風があり上陸は微妙と言われていましたが何とか上陸することが出来ました(上がれないときはクルーズ船は島を2周くらい海上から説明しながら周ります)。
軍艦島は真下の海底炭鉱から石炭を掘り出すための基地で、三菱の私有島です(正式名は端島)。長崎港から船で45分くらいの距離にあるごく小さな島で、南北480m、東西160mしかありません。わずか6.3ヘクタールの島面積の半分以上は炭鉱設備で、その残りのごく狭い区画に炭鉱労働者が居住していました(最盛期の人口は5000人。人口密度は東京の9倍で世界一)。アパート、幼稚園、小学校、病院、大浴場、映画館、パチンコ屋などの建物が前後左右にひしめき合い、上へ上へと高層化して密集し、その景観が海から見ると軍艦の甲板のようなので「軍艦島」と呼ばれるようになりました。しかし昭和49年に炭鉱は閉山され、住民は居なくなり、以後は「廃墟の無人島」として有名になったのです。
実際近くで見てみると、建物の密集度は圧巻です。朽ちていくコンクリートの黒ずんだ色合いが廃墟感をさらに演出して、古代遺跡とはまた違った「映画的な」場所になっています。B’zもここでプロモーションビデオを撮り、映画007「スカイフォール」のモデル地にもなりました。最近では「進撃の巨人」のロケも行われました。観光客は廃墟の前で記念写真に興じています。しかしガイドさんの説明でハッとしたことがありました。
「いま200人くらいのお客様が私の前にいらっしゃいますが、毎回お一人お二人くらいの確率で、元この島に住んでいた方も混じっておられます。その方達は決してこの廃墟の建物の前で写真は撮られません。『こんな廃墟は自分達が働いていたあの頃の思い出じゃない』というのです。当時の島は三菱が巨額の投資をして最新の設備を揃えた近未来の町でした。映画も長崎市内より先にここで封切りされていました。小学校にはエレベーターもついており、この島で働き暮らすことは住民の誇りだったのです」
ここは遺産というにはまだ早すぎる、昭和の思い出が詰まった島なのでした。
ガイドさんはこうも続けます。「世界遺産ではありますが、コンクリートの建物を永久保存する技術は実は今のところありません。ですので、この島の建物は日々刻々と劣化して崩れています。今日皆さんが見た軍艦島は明日にはもう、違う姿になっているのです」
木造や石造りの建造物は何世紀も生き長らえているのに、近代の発明品=コンクリートはこんなにも脆いのです。考えさせられます。
近代から現代につながる重工業の時代、人々が真っ黒になりながら働き未来を夢見ていた高度成長時代に思いをはせる短い船旅でした。機会があればぜひぜひ「世界遺産 軍艦島」を訪れてください。
【平成29年4月記】
120年ぶりの民法(債権法)大改正(平成29年6月2日公布) 弁護士 平尾嘉晃
1 今年は大政奉還から150年の記念の年です。
1867年(慶応3年)、二条城で大政奉還がされ、翌1868年(明治元年)、日本は近代国家の道を歩み始めました。
近代国家となるためには法律の整備が必要であり、市民法の基礎となる民法は、諸法の中でも極めて重要な法律といえます。そのため、どのような法律にするのかについて、明治時代にも大論争が巻き起こされました。
当初はフランス法を範とする(いわゆるボワソナード民法)旧民法が作成されましたが、その後ドイツ法の影響を受けた現行民法が明治31年(1898年)7月16日に施行され、これが約120年を経た現在も続く現民法となります。
2 このように、現行民法は、明治時代から続く、いわゆる老舗中の老舗ともいえる法律です。しかし、さすがに120年も経ては、市民間の取引環境も大きく変化しています。現行民法は明治時代の取引社会を前提として作られているので、当然、実態にそぐわないところも出てきます。
そこで、民法の中でも取引を規律する重要な部分である債権関係の規定をこのたび改正することとなりました。「120年ぶりの大改正」と言われています。
平成21年10月のから法制審議会で債権法改正検討がスタートし、それから8年を経て、ようやく、本年4月14日衆議院可決、5月26日参議院可決、6月2日公布となりました。施行は、公布日から3年以内とされておりますので、2020年頃、東京オリンピックの年になるかもしれません。
さて、改正の内容は多岐にのぼりますが、少しずつ、重要なところを紹介しようと思います。今回は「定型約款」の紹介です。
3 定形約款に関する規定の創設
⑴ はじめに
現代社会では、日常生活の多くの場面で、事業者が作成した約款に基づく取引が行われています。例としては、運送約款、宿泊約款、旅行業約款、あるいは生命保険約款、損害保険約款、さらには携帯電話等通信関連の約款、銀行取引約款などがあります。こうした約款は、相手方が作成に関与せず、そのため相手方が見たことのないまま作成され、また改正されるという実態がありますが、これまでは、法律上に何も規定がないまま利用されていました。
今回の改正民法では、以下の規定が設けられました。
①民法の適用対象となる「定型約款」の定義
②契約内容となるための要件(組入要件)
③定型約款の開示義
④内容に関する信義則規制
⑤定型約款の変更要件を明文化
⑵ ①定型約款とは?
定型取引 → ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの
定型約款 → 上記定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体
(3)このように、民法の対象となる定型約款とは、「定型取引」に利用されるものに限定されます。
では、定型取引に該当するものはナニ、ということですが、一言でいうと、相手方の個性に着目せずに行う取引であることを言います。そのため、労働契約は相手方の個性に着目して行う取引なので非該当ですし、事業者間取引も相手方個性に着目して行う取引であることが通常であり、ほとんどが非該当となります。さらに、この定義からすると、ある程度、多数の者を相手として契約書のひな形を作成しておいたとしても、取引相手毎に条件を詰めて(個別交渉ともいいます。)、最終的に契約に至る場合には該当しないこととなります。
結局、「定型約款」に該当するものは、一般消費者を対象としたもので、例として挙げた、運送約款、宿泊約款、旅行業約款、あるいは生命保険約款、損害保険約款、さらには携帯電話等通信関連の約款、銀行取引約款等と思われます。
⑷ 残りは、またいずれ。
私事ではございますが、平成29年4月から1年間、京都弁護士会副会長に就任することになりました。といっても、もうすでに半年近く経過してしまっておりますが・・・
4月以降、弁護士会館に詰めることが多くなり、顧問先様、依頼者、相談者の皆様におかれましては、なかなか連絡が繋がらない等ご迷惑をお掛けしていることと存じます。あと半年すれば、事務所に完全復帰しますので、もうしばらくお待ちいただきますようご容赦の程宜しくお願いいたします。
来年4月に復帰した際には、副会長の経験を生かして個別案件に邁進する所存ですので、何卒宜しくお願い申し上げます。
以前は、法服の素材について「黒色羽二重の地質」と定められていましたので(平成4年改正前の同規則2項)、法服を着るたびに、日本の誇る絹織物の素晴らしい手触りを実感することが出来ました。
他方、洗濯機では洗えないため、ちょっと汚れが目立つ気もする、というときには、クリーニングをお願いすることになるのですが、衣服の種類をクリーニング屋さんにどう説明するかが悩みの種でした(私は「コート」と分類されていた記憶がありますが、「スモック」(幼稚園児や保育園児のものにしては大きすぎるような気も…)や「ワンピース」(!?)としてクリーニングをお願いした、という話を聞いたことがあります)。
その後、上記の規則が変わり、素材の指定がなくなりましたので(現在はナイロン製ではないかと思われます)、洗濯(選択)の悩みからは解放されることになりました。
このたび、あの「黒いマントみたいなもの」から、ひまわりのバッジに衣替えをしましたが、紛争解決という法律家としての役割をしっかりと果たしていくつもりですので、これからよろしくお願いいたします。
【平成29年10月記】
「今年の漢字は?」 司法書士 桝田美佳子
先日、一年の世相を表す「今年の漢字」が発表されました。今年の漢字は「北」。
度重なる「北」朝鮮のミサイル発射や核実験の実施、九州「北」部豪雨、「北」海道日本ハムの大谷翔平選手や清宮幸太郎選手が話題を集めたこと、「キタ」サンブラックの天皇賞春秋連覇、「北」海道のジャガイモ不作によるポテトチップスの一部販売休止…など、言われてみれば「なるほどなぁ。」と思いましたが、最初に聞いたときはまったくぴんときませんでした。
毎年、この時期になると「あなたの今年の漢字はなんですか?」とインタビューを受けている映像をテレビで見ます。私も「今年の漢字は?」と考えてみました。
私が選ぶのは「雨」、個人的に今年はいろんな予定が雨(というより台風)で計画変更になり残念だったことが理由ですが、気象データ的にも今年は平年より雨量が多いそうで、特に10月に大型台風が相次いで本州に上陸したことは多くの人の記憶に残っていると思うので、「雨」が10位以内に入っていないことが意外です。
当事務所の「今年の漢字」はなんでしょう?
私が選ぶのは「新」です。当事務所は弁護士、事務局ともに入れ替わりがほとんどないのですが、今年は中村映利子弁護士の渡米、佐藤建弁護士の入所、事務局1名の退職及び入所があり、久しぶりの「新」顔を迎え、「新」しい風が吹いています。
ところで、今年は相続登記を促進するための「新」たな制度として「法定相続情報証明制度」がスタートしました。相続人の相続手続きにおける負担軽減にもなりますので、当事務所でも代理申請をしています。法律業界は、技術革新や新商品の発明がなく大きな変化のない業界ですが、常に「新」しい制度や知識を依頼者に提供できるように私たちは日々の業務に取り組んでいます。
京都新聞の「今年の漢字」の記事には「心を凍らす不安の北風」との見出しがつけられています。来年は、もっと希望ある漢字が選ばれるような一年になりますよう、そう願っています。
【平成29年12月記】
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