- 検定にはまる 弁護士 吉田誠司
- 私は名古屋の出身ですが、学生時代からもう30年以上京都に住んできました。日本じゅう、世界じゅうから友人知人が遊びに来るたび、京都のことをあれやこれやと質問されます。だけど30年住んでも、この街のことは奥が深すぎてなかなか知り尽くせません。それなりに知っているフリをしていますが、いったい自分はどれくらい京都のことをきちんと知っているのだろうか…そう思い立ち、「京都検定」(京都・観光文化検定試験)を受けてみたのが平成28年のことでした。
京都検定は、1級、2級、3級とあり、初心者は3級から受験するように勧められますが、私は実情をよく知らずいきなり2級に申し込んでみました。公式テキストというのを6月に買い、試験は12月なので、余裕をかましてテキストはパラパラみただけで過去問も解かず、10月頃にはじめて過去問をやってみると全く歯が立ちません。4択ですが、例えばこんな問題。
開山の清玉が本能寺の変で自刃した織田信長らの遺灰を密かに集めて祀ったといわれ、境内に信長父子や森蘭丸ら家臣の墓がある寺院はどこか。(第6回の2級問題より)
①金戒光明寺 ②清浄華院 ③阿弥陀寺 ④瑞泉寺
(答えは末尾に)
2級の問題は公式テキストから70%出題され、かつ合格ラインが70%ですから、テキストをしっかりやっていればギリギリ受かります。しかし、「歴史、史跡、神社・寺院、建築・庭園・美術、伝統工芸、伝統文化、花街、祭と行事、京料理、京菓子、ならわし、ことばと伝説、地名、自然、観光等、京都に関すること全般」という出題範囲です。ものが「京都」ですから、それぞれのジャンルに山程のコンテンツがあるのがこの試験の怖さ。テキストも本文だけで350頁もありました。10月以降はどこに行くにもテキストを携え、仕事中に神社寺院に出逢えば由緒を読み、和菓子屋があれば入って買い、という毎日。試験本番も受験者全員がピリピリした雰囲気で真剣に挑んでいることがわかりました。タクシーの運転手さんも多かったようです。結果、ほんとうにギリギリの70点で辛くも合格したのでした。
京都検定は合格すると京都の主なホテルのレストランが割引されるという特典もついていますが、何より京都のことをちゃんと勉強できたことが、その後の普段の生活や仕事にも役に立っています。その後、私は検定ものにはまり、別の検定にもチャレンジしました。それは「日本さかな検定(愛称ととけん)」。その話はまた次回に。
(答え ③阿弥陀寺 上京区の寺町今出川上ルにあります。学生時代このすぐ近くに住んでいたのに全く知りませんでした…)
【2022年4月記】
- 障害者総合支援法 弁護士 平尾嘉晃
- 平成25年から障害者総合支援法が施行されています。①障害者にとって、日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものの除去、②身近な場所での社会参加、また、誰とどこで生活するかを選択でき、その望む場所で他の人々と共生できること等を基本理念(同法1条の2)としており、その上で、各種の障害福祉サービスを規定しています。
かつて、障害者は、家族内に隔離され社会の目につかないようにされてきました。1970年代以降、家庭内で抱え込むのではなく、社会全体での共生が意識され、特に1980年代後半以降は、養護学校を卒業した児童の受け入れ先確保のため、知的障害者の授産施設いわゆる共同作業所などが京都でも多く開所されました。
私も、学生時代に、共同作業所にボランティアで行っており、パン作りや封筒作りなどの日中生活(今でいう生活介護)に関わったことがあったので、重度知的障害者の方の日常生活を少しは見てきました。障害の重い方は車での送迎となりますが、地下鉄やバスなどで通所できる軽度の方は一人で通所しており、みなさんも公共交通機関内で見かけることがあると思います。知的障害者や精神障害者の方を見かけたとき、その行動パターンを理解できず、正直、気味悪く思われる方もいるのではないでしょうか。
しかし、これは、これまで知的障害者や精神障害者の方に関わる機会がなく、その行動パターンを知らないことから生じるものだと思います。
こうした、知らないことから生じる誤解や偏見をなくすためには、昔のように家族内だけで生活、あるいは障害者施設のなかだけで生活するというのではなく、日常生活、社会生活の場に、障害者もどんどん参加し、共に生きることが必要なのだと思います。
プロフィールにあるとおり、私は、現在、障害者施設を運営する社会福法人に複数かかわっており、障害者の方の社会での共生に、今後も協力できればと思っております。
私が学生時代ボランティアで関わっていた頃は、まだ養護学校を卒業して間もなく若かった障害者の仲間が、30年経ちだんだんと高齢化しています。これからは、高齢となった障害者の仲間の生活をどうするか、成年後見の問題、あるいは障害福祉サービスと介護保険サービスとの関係をどう考えるかが、重要な課題となってくるでしょう。
【2022年5月記】
- 中小企業を支援する中小企業活性化協議会 弁護士 宮﨑純一
- 皆様、中小企業活性化協議会をご存知でしょうか。
中小企業活性化協議会は、中小企業の活性化を支援する「公的機関」として47都道府県に設置されており、全国の商工会議所等が運営しています。同協議会は、「中小企業の駆け込み寺」として金融機関、民間専門家、各種支援機関と連携し、「地域全体の収益力改善、経営改善、事業再生、再チャレンジの最大化」を追求します。中小企業の財務的安定のための収益力改善をはじめ、借入金返済等の課題を抱えた中小企業の経営再建に向けた取組を支援するものです。
2003年に中小企業再生支援協議会が創設され、2022年3月、中小企業再生支援協議会は、経営改善支援センターと統合し、「中小企業活性化協議会」となりました。
私は、弁護士業も続けながら、令和4年2月頃から、京都府中小企業活性化協議会でも執務をするようになりました。同協議会には、課題を抱えた多くの中小企業の皆様が相談等に来られるのを目の当たりにして、弁護士業とは異なった視点、距離感での中小企業のサポートの大切さを日々実感しております。未曾有のコロナ禍において、多くの中小企業が大変な苦労を重ねながら事業の継続に心血を注いでおられます。そのような中小企業を支援することで、事業が継続し、雇用が維持され、取引先も守られ、ひいては地域経済の活性化につながります。
当事務所は、これまでも、そして、これからも、より一層充実した中小企業等の支援に取り組んで参ります。
【2022年6月記】
- ちらりとのぞいたアメリカあれこれ(3) 弁護士 中村映利子
- 2017年~2019年渡米してのぞき見た日米の違いをご紹介させていただいています。3つ目です。
(3)求めよ、さらば与えられん
在米中、子どもと一緒に「Super Why」というテレビ番組をよく見ていたのですが、この中でおもしろい放送回がありました。
この番組は、主人公の4人の子ども(うち1名はブタ)が、絵本の中に飛び込んで、「スーパーリーダーズ」というヒーローに変身し、困っている絵本の登場人物をお助けする、というものです。対象年齢は2~4歳でしょうか。
その日の舞台は農場でした。農場で暮らすメンドリさんは、ひよこたちに「今日はコーンブレッドを食べさせてあげるね!」と約束しました。しかし、トウモロコシの収穫、脱穀、製粉とたくさんの作業をするうち、メンドリさんは疲れ果ててしまいます。このままではひよこたちとの約束が果たせません。
そこで、農場にいる牛や羊など仲間たちに、手伝ってくれるよう頼みました。みんな干し草の前でゴロゴロしているだけで、とても暇そうです。ところが、牛さんも羊さんも皆一様に「Not I.(私はイヤ~)」と言うばかりで、一向に手伝ってくれません。
そこに現れたスーパーリーダーズ。みんなで話し合って、理由を添えて手伝ってほしいともう一度仲間に伝えてみることにしました。すると、仲間たちは「おや、そういう理由だったのか!」、「それは大変だね~」と言って、手伝ってくれるようになりました。おかげでひよこたちはコーンブレッドをおなかいっぱい食べることができましたとさ。めでたしめでたし。
毎回問題を解決したあと、スーパーリーダーズは絵本の世界から現実世界に戻ってきて、本日の教訓を話し合うのですが、この回の教訓は、「Tell Why!」(理由を話そう!)でした。「メンドリさんは、手伝ってほしいと言うだけではダメだったね!」、「助けてほしいなら、ちゃんと理由まで話さないとね!」というまとめをして、その日の番組は終わりました。
なんということでしょう。半べそかきかき「手伝ってくれよ~」と繰り返しお願いするメンドリに対し、干し草の前でゴロゴロしながら「Not I.」と無碍に断ったお友だちの態度には、一切お咎めなしです。
このお話がもし日本で放送されていたら、どうなっていたでしょう?私の記憶にある限り、「困っている人には、進んで親切にしましょう」と教えられたことはあっても、「困った時には自分ではっきり助けを求めましょう」と教えられたことは恐らく一度もありません。黙して他人の親切を待つ慎ましさは、日本の美徳の1つでしょう。
しかし、かつては当たり前にあった「味噌汁の冷めない親戚づきあい」や、「お醤油を借りに行けるご近所付き合い」が、今ではすっかり減ってしまったように思います。むしろ「高齢者に席を譲ったら逆ギレされた」、「マナーを注意したら殴られた」などといったニュースが耳目を集め、町でただすれ違う「見知らぬ人」への警戒心や距離感のようなものが大きくなっていっていると感じます。そんな時代に、「他人の親切を黙して待つ」という姿勢は、もはやそぐわなくなっているように思います。
誰しも、大なり小なり自分一人の努力ではどうしようもない場面に出会うものです。運が悪かった場合もあるでしょうし、反省すべき場合もあるでしょう。しかしいずれの場合であっても、現に困っているのなら、「今ちょっと困っているから助けてほしいです。」とはっきり言えるマインドが、私たち日本人にも必要ではないでしょうか。
【2022年10月記】
- 未成年の事件を担当して 弁護士 安原千尋
- 今年は、刑事事件の関係で、未成年の方やそのご家族から多くご依頼をいただいた一年でした。
成人の刑事事件は、罪を犯した人に刑罰を科し、犯罪を抑止・防止していくことを目的としますが、少年事件は、非行に走ってしまった少年に対し保護処分を行うことにより、少年の健全育成を目指します。このように目的に違いがあるので、審理が行われるのが原則家庭裁判所であったり、審判が非公開であったり、手続きにも違いがあります。また、審判では、少年の行った犯罪についてのみ審理されるわけではなく、家庭環境や生活状況等の事情も、処分を決定する上での重要な考慮要素となります。
弁護士として検察や裁判所に意見を出すときにも、当然、少年自身のことやご家族のことを記載しますし、時には、学校での出来事や将来の夢を盛り込むこともあります。ですので、少年にとって、何でも話してもらえる存在でありたいと思っていますが、なかなか心を開いてもらえないと感じることもあります。そんなときは、できるだけ時間を作って、何度も何度も鑑別所に会いに行き、話しやすい存在になれるまで、ただ時間を共にするようにしています。好きな食べ物、苦手な教科、お母さんと喧嘩したこと、休日には友達とどんなことをして遊ぶか、少しずつでも話してもらえるようになると、嬉しいものです。
弁護士は、少年の犯してしまったことに対する罪を、できるだけ軽くすることだけを目的として付き添うわけではありません。その少年の今、そして将来に、どういう処遇が最も適切か、ご家族だけでなく、裁判官、調査官、鑑別所、その他関わる全ての人とともに、頭を悩ませています。
今年は、少年の未来を一緒に考える機会に恵まれました。来年以降も、社会を担う少年たちの健全育成の一助となれるよう精進していきたいと思います。
【2022年12月記】