・財産の管理について(後見制度)
日常生活は法律行為の積み重ねです。例えば、スーパーでの買い物、賃貸マンションの更新、銀行預金の入出金、年金や保険金の受取り等、これらはどれも法律行為です。しかし、年齢を重ねる中で、次第に物事の判断力が以前ほどふるわなくなり、自分一人ではこれら法律行為が難しくなることは、どなたにも起こりうることです。また、認知能力の低下により、ご本人にとって利益にならない取引をしてしまい、周りの者が後から気付いても今さら取り消せないといったケースもあります。
このような状況を解決すべく、民法には、ご本人に代わって第三者が財産管理を行う「後見制度」が用意されています。認知能力の程度に応じて、「補助」、「保佐」、「後見」の三段階に分かれており、全てを代理して行うものもあれば、原則的には法律行為はすべてご本人が行いつつ、特定の行為(不動産売却など)に関しては取消し可能というものもあります。
また後見人の選任方法として、任意後見制度と法定後見制度の2つの制度があります。任意後見制度とは、まだ認知能力が十分あるうちに、将来誰を自分の「後見人」(自分の代わりに財産管理を行う人)とするか、どのような事柄を委任するかをご自身で決めて、後見人候補者の方と契約しておくというものです。他方、法定後見制度とは、実際に認知能力が低下してから、ご親族やご本人において家庭裁判所に申立を行い、裁判所に後見人を選んでもらう制度です。法定後見制度であっても、申立時に後見人になってもらいたい方を「候補者」として申し立てることはできますが、事情によっては候補者以外の者が選任される場合もあります。
いずれの制度についても、法定の要件に沿った準備が必要です。ご関心のある方はお気軽にご相談下さい。
・遺言や相続にまつわる問題
(1)遺産の分け方について
人は生きている間、権利や義務の帰属主体として活動しています。例えば、銀行にお金を預け(預金債権)、車を持ち(所有権)、ローンの返済義務(負債)を負っています。ところが、死亡と同時に人は権利義務の帰属主体ではなくなりますので、法律で決められた人(法定相続人)に、法律で決まった割合(法定相続分)で、権利と義務が移ります。
相続人全員が、法律で決まったとおりの分け方で異存がないのであれば、あとはそれに沿って預金の払戻手続や不動産登記手続を行うことになります。
しかし、相続人全員が同意するのであれば、法定相続分とは異なる分け方も可能です。意見の相違などにより当事者だけでの話し合いが難しい場合には、家庭裁判所に調停を申し立て、裁判所で協議することもできます。
(2)遺言について
自分の死後、法律で定められたルールとは異なる方法で財産を引き継がせたい場合には、希望の内容を「遺言」に残しておく必要があります。遺言には、秘密証書遺言、自筆証書遺言、公正証書遺言の3種類があります。いずれも作成するうえで形式的なルールがありますが、内容については、遺言者の方が自由に決められます。
但し、法律は法定相続人の方(但し兄弟姉妹は除く)に最低限の取り分を保障しています。この取り分のことを「遺留分」と言います。せっかく遺言を書いても、内容次第では、遺言者の死後、遺留分をめぐって紛争が起きることもあります。それもやむなしとして遺言を作成されるケースもありますし、遺留分による紛争を避ける形に作り変えられるケースもあります。
(3)相続放棄について
さて、相続というとプラスの財産が入ってくるというイメージが先行しますが、実際には、財産ばかりが引き継がれるわけではありません。負債も同様に引き継がれます。蓋を開けると積極財産よりも負債の方が多かった、というケースも多々あります。つまり、相続を受けない方が、経済的には得であるということです。そういった場合には、相続放棄という手続が可能です。相続放棄をすれば、積極財産も負債もどちらも引き継がないことになります。
但し、この手続は、相続の発生を知ってから3か月以内にしなければなりません。また、一度でも相続を承認したと見られる行為(例えば相続財産を売却してお金に換えてしまったり、相続した負債を返済したりする行為)を行うと、原則、それ以降は相続放棄ができなくなるので注意が必要です。
(4)期限に注意
以上の通り、相続は、ご本人やご遺族の方の意思で決定できるよう制度設計されていますが、期限にはくれぐれも注意が必要です。遺留分侵害を回復するための請求にも、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間とされています。気になることがある場合は、早めのご相談をおすすめします。